ドラマ化になった「西洋骨董洋菓子店」をはじめ、その繊細なキャラクター描写で女性読者に絶大な支持をもつよしながふみ先生に今回はインタビューして来ました。実は「とらだよ。」SD・つか素は恥ずかしながら昨年になってはじめてよしなが先生の作品を読んだんですが、どの作品も「読ませる」内容でイッキにハマってしまいました。今回はその中でも「とらだよ。」読者なら思わず共感してしまう(?)独特なオタクキャラ・真島が人気の学園コメディ「フラワー・オブ・ライフ」を特集します。

   
 

© よしながふみ/新書館・ウィングス

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『とらだよ。』vol.52対象ページ
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 第55回:森永みるく先生

 第54回:神宮司訓之氏

 第53回:私屋カヲル先生

 第52回:久世番子先生

 第51回:大島永遠先生

 第50回:おがきちか先生

 第49回:「コミックハイ!」編集長 野中郷壱氏

 第48回:えりちん先生

 第47回:倉科遼先生

 第46回:よしながふみ先生

 第45回:菊池直恵先生

 第44回:石田敦子先生

 第43回:藤代健先生

 第42回:林家志弦先生

 第41回:山名沢湖先生

 第40回:ひぐちアサ先生

 第39回:鈴木次郎先生

 第38回:竹本泉先生

 第37回:深巳琳子先生

 第36回:影崎由那先生

 第35回:宮野ともちか先生

 第34回:甲斐谷忍先生

 第33回:芳崎せいむ先生

 第32回:阿部川キネコ先生

 第31回:田丸浩史先生

 第30回:二ノ宮知子先生

 第29回:大井昌和先生

 第28回:広江礼威先生

 第27回:曽田正人先生

 第26回:日本橋ヨヲコ先生

 第25回:羽海野チカ先生

 第24回:石田敦子先生

 第23回:柳沼行先生

 第22回:大島永遠先生

 第21回:吉崎観音先生

 第20回:小野寺浩二先生

 第19回:ぢたま某先生

 第18回:森薫先生

 第17回:木尾士目先生

 第16回:堂高しげる先生

 第15回:犬威赤彦先生

 第14回:八神健先生

 第13回:志村貴子先生

 第12回:文月晃先生

 第11回:Dr.モロー先生

 第10回:梁慶一・尹仁完先生

 第9回:山口貴由先生

 第8回:塩崎雄二先生

 第7回:倉上淳士先生

 第6回:榎本俊二先生

 第5回:氷川へきる先生

 第4回:山浦章先生

 第3回:さなづらひろゆき先生

 第2回:村枝賢一先生

 第1回:はっとりみつる先生

  • 編集:まずこの「フラワー・オブ・ライフ」(以下、「フラワー」)を描く ことになったきっかけを教えてください。

    よしなが先生:以前から「ウィングス」さんでは描かせてもらっていたんですけど、この「フラワー」の前まで「ウィングス」という雑誌の対象読者のことをあんまり考えていなかったんです。それまではボーイズラブで描けないものを描いていこうと考えていたんですけど、「フラワー」の前に描かせてもらった「西洋骨董洋菓子店」(01年ドラマ化作品。以下、「西洋骨董」)という作品を描いている時にふっと頭をよぎりまして、「対象読者っていくつぐらいが中心なんですか?」って聞いたんです。そうしたら「10代後半の女の子達です」って言われてビックリしまして(笑)。「西洋骨董」って、4人の内3人が30代なんですよ。それまでは何も考えずに自分が読むつもりで描いていたんですけど、それを聞いてものすごく若い読者が読む雑誌なんだってことが分かったんで、次の連載ではキャラクターの年齢を半分くらいにしないとマズイですね、って話していたんです(笑)。それで年齢的に高校生ということで、学園モノにしましょうってなったんです。

  • キャラクター設定などはどんな感じで決めていったんですか?

    最初に漠然と学園モノって決まってから、主人公、春太郎についてはすごくスタンダードな主人公らしい男の子にしようと考えたんです。それから何か病気をしていたけど、それにそぐわない明るい性格という設定を決めました。翔太については太った人が好きなので、太ったキャラクターをどうしても入れたかったんです。だけど主役だとキツイかなって思ったんで、じゃあ親友の男の子が太った子がいるってことで、ちょっと「ふかふか」の子にしてみたんです。もう一人の真島なんですけど、オタクの人が、まあ自分もオタクなんですけど、好きなんで出したかったんです。ただ翔太がふかふかな子なんで、バランス的にもう一人のキャラは読者の女の子たちに対して絶対的にビジュアルをサービスしたキャラじゃないといけないと思って顔だけは美しくしました。真島はオタクでもきっと顔さえ美しく描けば女の子達も好きになってくれるんじゃないかみたいな願望っていうか、本当に願望なんですけど、「好きになってくれるといいな〜」みたいな感じで綺麗に描いた感じのキャラですね。

  • 太った人が好きというのは「愛がなくても喰ってゆけます」(太田出版)でも仰っていますね。

    ええ、本当に好きなんですよ(笑)。私は翔太君のことを可愛いと思っているので、なんかぬいぐるみみたいな愛されキャラみたいな感じで描きたいなって思っているんです。

  • 「愛がなくても喰ってゆけます」といえば、印象的なのがYながFみの素顔なんですけど、かなりすごいですね?

    「稲中」(「行け! 稲中卓球部」古谷実先生/講談社)が好きなので(笑)。

  • 「フラワー」の話に戻りますが、今迄の作品に比べて登場人物が多いと思ったんですがどうですか?

    やっぱり学園モノなんで、メインの3人だけでなく、クラスメイトや先生とか考えました。特に最初の頃から考えていたのが滋なんですよ。滋は私が「ベルサイユのバラ」(池田理代子先生/集英社)が好きでなんか男装の麗人を出したいって思って、それっぽいキャラを一人ということで描いたキャラなんです。ちょっと男装の麗人って言うには「あれ?」って思われるかもしれませんけど、私的には描きたかったキャラですね。私として学園モノを描くからには、高校生など思春期にあるその時特有の小さい人間関係の行き違いとか、お友達に言わずもがなのこと喋ってしまったとか、そういう日々日常の、でも彼らにとってはとても大きい事件のようなことを描いていきたいと思っていたので、クラスメイトなどについてはだいぶ考えました。

  • 最初から共学にしようと思っていたんですか?

    共学にすることははじめから決めていました。読者の方も女性がメインですし、私自身が男子校のことがわからないってこともあるんですけど、本当に普通の高校にしようって思いました。

  • 文化祭の話(第8話)とかで学校中がすごく盛り上がっていますけど、このへんは先生ご自身の経験などが活かされているんですか?

    そうですね、昔の自分の高校に近いです。文化祭も本当に漫画と同じようなことをやったんですよ。なぜかものすごく劇が盛んでそれこそ「ベルばら」もやったし、「ガラスの仮面」に出てくる劇中劇の「二人の王女」もやっているクラスもあったんですけど、私のクラスはオペラが流行っていたからなんですけど「アイーダ」とかやっていました。私自身は漫研で会報とか作っていたんですけど、そういった文化祭のノリは漫画に活きていると思います。

  • キャラクターについてもう少し伺いたいんですが、やっぱり真島がこの雑誌の読者にウケると思うんですけど、あそこまで飛ばした設定にしたのはどうしてですか?

    ちょうどこの漫画の打ち合わせをやっていた頃は「テニスの王子様」が流行っていて読んでいたんですけど、それで手塚部長っていうキャラが格好良さそうだな、なんかこんな感じでメガネにすれば女の子も好きになってくれるかなって思ったんですけど、実際に描きはじめたら、手塚部長でなくて、乾っていう別のキャラに近くなっちゃったんです(笑)。それで「ああ私って、こっちのキャラクターの方が好きなんだよ、やっぱり」って思って、結局自分の趣味に近くなってしまいました。あと自分の高校生活を振り返った時に真島ほどじゃないにしてもそういうヤツって必ずいて、女でも男でもずっと見てきたせいか、私の中では身近なキャラだったんですよ。そういう人ってキャラも立っていたし、実際「●●って、困るよねー」みたいなことも言っているんですけど、自分も付き合っていたっていうことは楽しかったんだなって思うんです。奇矯な人全てを外しちゃうような共同体って、どうかなって思いますし、「フラワー」でもそうですけど、みんな真島のことを困ったやつだなって思いながら、何かをする時には声を掛けてやるみたいなところがあるじゃないですか。私自身、漫研に入っていたんですけど、やっぱり漫研の中にも濃い薄いがあって、仮面じゃないですけど、一般的には学校に馴染んでいて、漫研に来た時だけ漫画の話をしている人と漫研以外でも漫画の話しか出来ない人がいるんです。そういう子ってサークルでも「どうなんだ、あいつの社会性は?」みたいな話にはなるんですけど、それはそれで愛すべきキャラなんですよ。だから真島みたいなキャラもアリかなと思って。

  • 1巻までだと真島って結構普通のオタクだなって思ったんですけど、2巻からもうすごいですよね。特に武田さんに対して語るところとか(第6回)、飛ばしているなーって思ったんですけど、あれはキャラが勝手に動いてきたんですか?

    だいぶリアリティのないキャラになってきましたね(笑)。やっぱり筆が乗ってくるとキャラクターが動いてくれるので武田さんとの絡みはむしろそれを期待してやったところはあります。

  • キャラクターに対するツッコミもそうなんですが、今迄の作品に比べて先生ご自身がかなり作中で説明をされるシーンがあると思うんですが、その点はどうですか?

    基本的に今迄はあんまりモノローグを書かない描き方をしてきていたんですけど、今回は「動物のお医者さん」(佐々木倫子先生/白泉社)じゃないですけど、ちょっと説明でなんか入れようかなって思ったんです。あの作品も大学生モノっていうか、学園モノみたいなんで、なんか冷静なツッコミみたいなのが入る感じを漫研やコミケなどの説明に使えたらと思ったんです。実際コミケとかを真島が説明することになったら、ちょっとくどい感じになるかなと思って、そういうところを説明させる為に四角(モノローグのコマのこと)を作りました。

  • もう一つ真島だと、「萌え」を語るときの演説というか、セリフがすごく多いですよね。

    あれは中身よりも真島の傍若無人ぶりっていうか、誰も聞いていないにも関わらず、ずーと喋っているというオタクっぷりを出すために描きました。

  • ちなみに真島をメガネにしたのはサービスですか?

    メガネは私の萌えです。私1作品1メガネがいないと耐えられなくなるので(笑)。

  • 太っているのもそうですけど、萌えポイントが多いですね(笑)。ところで先生の今迄の作品にはすごくカッコイイ男性がいっぱい出てきているわけなんですけど、先生自身のいい男の定義みたいなものって教えてもらっていいですか?

    実はヒゲも好きなんです。「西洋骨董」を描いている時に「こんな幸せなことはない!」と思ったのはヒゲ(橘)が描けたことです(笑)。ハゲ、ヒゲ、メガネ、そして太っていると4つ揃っていると最高なんですけど、なかなかお目にかかれないですね。私、アラーキー(写真家の荒木経惟氏)のルックスとか好きなんですよ、あの方はそんなに太っていませんけど、2次元だと「シティーハンター」(北条司先生/集英社)の海坊主。あの人も太ってはいなくてマッチョですけど、純情な感じのああいうキャラは好きです。サングラスも可(笑)。

  • 「げんしけん」(木尾士目先生/講談社)の大野さんみたいですね。

    あー、あの人もそうかも。でも「げんしけん」だと斑目の方が好きです、弱いから。意地っ張りなんだけど、脆いところを持っている、とっても人間味のあるキャラですよね。いわゆる人間として出来た人じゃないほう、どこかダメな人が好きなんですよ。それもなにか欠けているっていうレベルじゃなくて、全部、何もないほうが好きなんです。そういった意味では「西洋骨董」に出てくる千影、彼は私にとって多分究極、あんないい萌えキャラを描かせてもらって本当に良かった(笑)。彼は本当に何にも出来ない人、心が清い以外は美徳がないっていう究極のキャラですね。漫画の中でもいい男ってなんだかんだ言ってやっぱり仕事だったり勉強やスポーツができなきゃいけないって思うんです。だけど例えば女の子だとドジっ子キャラっていうのがあって、例えば喫茶店のウェイトレスだったら本当に何にもできなくてごめんなさいって泣いてるんだけど顔だけ可愛いみたいなキャラがいるじゃないですか、あれを男で描いてみたいって思ったんです。何にも出来ないんだけど顔と性格だけがいい男が描きたいなと思って。

  • もう一人気になるキャラといえば、武田さんだと思うんですけど、彼女は男性読者に対する萌えキャラですよね。

    実は武田さんは途中から考えたキャラなんです。共学だから漫研に女の子を入れてみようと思ったんですけど、どうせなら真島に負けないキャラということで、イメージ的には仲間由紀恵さん、「TRICK」の仲間さんのイメージで考えました。萌えキャラかどうかはどうなんでしょう? 私自身は武田さんには萌えなんですけど、メインの読者である女の子からすると、武田さんはどちらかと言えば面白キャラになるのかな〜と思って描いています。

  • 先生ご自身のお気に入りのキャラって誰ですか?

    やっぱり見た目的に翔太が好きなんですけど、私、滋が不倫をしてる相手の小柳先生が好きなんじゃないかと思うんです。彼、段々と情けない事になっていくので。「西洋骨董」を描いた時も橘が好きだったんで、そういう普通の大人の男の人の情けない姿というか、弱いところが多分好きなんです。普通に平気な顔している人がどっかでポロッと出す弱さ。特に大人の男の人は隠すというか出さないようにしているじゃないですか、そんな人から弱さがポロッと出てくる瞬間、それこそが萌え〜っていう感じですね(笑)。

  • 「それを言ったらおしまいよ。」(太田出版)も読んだんですけど、あの短編集の中に出てくる人たちも弱さを出さないように我慢していますよね。

    この短編集の最後に「ピアニスト」っていう漫画があるんですけど、それとかが私の萌え漫画かも。ああいう才能を失ってしまったピアニストの話みたいな、何もかも奪われてしまった人の最期のプライドさえも奪われていくみたいな話が好きなんです。

  • 連載を始める際にどれぐらいの長さで描くか考えていましたか?

    始めは3巻構想でした。1学期で1巻、2学期で2巻みたいに考えていたんですけど、2巻で文化祭が盛り上がったのと武田さんがいい感じだったので、2巻で2学期が終わらなかったんです。それで今では4巻構想に直しました。たまにサブキャラの話とかも考えているんですけど、オチというかエンディングはいまのところブレていないんで、そこに向けてどう描いていくかを考えつつ描きすすめています。

  • 作品を描いていてターニングポイントと言うか、手応えを掴んだ回ってありますか?

    いいデブ悪いデブの話(第3話)かな。あの話は一回ケンカして仲直りする、雨降って地固まるみたいなエピソードなんですけど、この話を通じて春太郎と翔太の関係は強くなったかなって思います。しかも二人が最後に仲直りするところもそうなんですけど、結局お互い分かり合えているわけじゃないんですよ。春太郎は翔太の本当に恥ずかしかった気持ちがどうだったのかって分かっているわけじゃないですし、結局お互いの考え方は全然変わっていないんですけど、でも二人ともお互いが大好きなんだよっていうことが確認しあえたからいいやみたいな、そういう感じなんです。分かりあえないけどいい関係、でも人間関係ってみんなそうじゃないですか。本当のところ他人のことって分からないけど、でもその暖かい気持ちだけは分かるみたいな、二人のお互いを思う気持ちみたいなものを描くことが出来た回だと思っています。それと相沢さんが主役の甲子園古墳の話(第4話)ですか。あの話でそれまで3人だけの話だったのがクラスみんなの話に、群像劇になることが出来たと思います。この話ではやっぱり春太郎の意見っていうのは一意見でしかないみたいな、なんかこうみんなはみんなでそれぞれバラバラのことを考えているんだよっていう感じのことが言いたかったんじゃないのかなと思うんです。しかも最後に悪ノリでパーティーをやって真島のことをますます怒らせる、そういう高校生ならではの余計な行動、目的よりも手段が楽しくなっちゃう感覚、みんなとつるんでいる事自体が嬉しくて目的を忘れちゃうといった感じが描きたかったのだと思います。もう一つこの話では真島も所詮高校生というか、子供なんだってことも描きたかったので。あとやっぱり武田さんという真島に対抗できるキャラの登場でしょうね。特に文化祭の話では彼女のおかげでだいぶ群像劇らしくなったんじゃないかと思います。

  • この作品で一番描きたいことって何ですか?

    子供が大人になるってことに尽きるのかな。1年間ですけど子供が成長する姿だったり、高校時代の本当にごちゃごちゃした独特の空間だったり、そんなことが描けたらと思います。高校生活って毎日の友達との人間関係でいっぱいいっぱいになっているだろうし、私もそうでしたけど、思春期って苦しいと思うんです。でもその苦しい思春期を送っている人達に後から見るとそんなに悪いもんでもないだよっていうことを伝えることが出来ればと思っています。

  • 最後に読者へのメッセージをお願いします。

    基本的に自分の漫画がどんな人にどういう風に読まれるかは全く想定できない性質なので、男性でも女性でも読んでくださればそれだけで嬉しいです。自分がこうして描いていく中で、これが見所ですとか自信を持って言えるようなところが特にないので、読んだ方たちがそれぞれどこか面白いと思ってくれたら、気の合うところで楽しんでもらえればいいなと思っています。これからもよろしくお願いします。

[取材日:平成17年4月25日(協力 新書館「ウィングス」編集部)]


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