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船橋洋一
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ドイツの対米“毒消し”外交

 ドイツの総選挙は、シュレーダー首相の率いる社会民主党・緑の党の連立政権が勝った。イラク戦争が焦点となり、世界注視の中、イラク参戦の是非をめぐる国民投票の様相を呈した。

 選挙戦でシュレーダー首相は米国のイラク攻撃構想を「冒険」と批判し、ドイツは「ドイツの道」を歩むと喝破した。

 「友人というのは、言われたからといって、ハイそうですか、とやることではない。そんなのは家来であって、友人ではない」(リューベックでの選挙演説)

 終盤になって、閣僚の一人が「ブッシュは国内問題から目をそらすために対外侵略をしようとしている、ヒトラーと同じだ」と述べたと報道された。ホワイトハウス大統領補佐官を「米独関係を毒した」と激怒させたが、終わってみればこのイラク戦争批判のおかげで票を伸ばし、競り勝った形である。

 同盟国の指導者が選挙で再選されれば、お祝いの電話を入れるのが常だが、ブッシュ大統領はそれをしなかった。ブッシュは個人的にウマが合うかどうかをとても大切にする政治指導者のようだから、シュレーダー首相の対米“毒消し”外交は相当苦労することになるだろう。

 この件となると、米政権の高官たちもいささか感情的だ。

 「イラク戦争が始まれば、ドイツに駐留する米軍が最初に動員されるが、彼らは戦争が終わってももうドイツには戻らないかもしれないよ」

 「ドイツは国連安保理常任理事国はもう望まないことだ。少なくとも米国の支持は難しいと覚悟して欲しいね」

 しかし、ドイツにも言い分はある。

 このほどロンドンで会ったドイツの外交官は、「シュレーダーは選挙のため平和カードを切ったが、ブッシュも(中間)選挙のため戦争カードを切ろうとしているではないか」と小声で言った。

 選挙直前にワシントンのドイツ大使館で会った外交官は、「選挙に悪性ウイルスが入ったとしか言いようがない」と嘆きつつ、「選挙が終われば米独関係は元に戻るはずだ」と自らを励ますような言い方をした。

 「ドイツは対テロ戦争に最初から全面協力してきた。アシュクロフト(司法長官)と会ったとき、ドイツとの対テロ治安協力がすべての中で一番うまくいっていると感謝してくれた。いまではドイツの捜査当局の職員がFBI(米連邦捜査局)にオフィスをもらって仕事をしている」

 「ただ、イラク戦争は対テロ戦争とはまったく別の事柄だ。リンゴとオレンジをごちゃ混ぜにするべきではない。手を広げすぎると、アフガニスタンの国づくりがおろそかになり、中東が不安定になる恐れがある」

 先月末、東京で行われた日米戦略対話では「われわれはメガホン外交はしない」と言う日本側に米側は目を細めたという。ドイツのように人前で大声を出して批判するような真似(まね)はしません、ご安心下さいということだったようだ。

 たしかに、米国に頼まれもしないのに、参戦はダメダメとわめいて見せたのは、同盟国の指導者のやるべきことではない。ただ、「悪性ウイルス」にかかったドイツとは違ってきれいなものですと自分の無菌状態を売り込むことより、イラク戦争の是非と得失、さらに同盟としての課題と協力について徹底的に議論するべきなのだ。

 ドイツが格闘しているテーマは決して他人事(ひとごと)ではない。

 まず、ドイツはコソボからアフガニスタンへと平和維持活動(PKO)に参画し、「普通の国」への道を固めてきた。その道のりは平坦(へいたん)ではない。つねに一緒に同じように戦うのが同盟とは限らない。それぞれの役割を認めつつ、どのようにそれを調整するべきなのか。

 もう一つ、シュレーダー首相の「ドイツの道」は舌足らずで要らぬ誤解を招いた。米独協調と欧州統合の枠組みの中でのドイツの安全保障政策であり、ドイツの自己主張であるはずなのに、そこから踏みだしてドイツ一国主義を唱えたかのように受け取られた。一国主義は米国のと同様、望ましくない。

 だが、ドイツの問題は結局は米国の問題の反照とも言える。9・11ショック以来、米国は先制攻撃まで正当化するような一国主義中毒にかかりはじめている。この国は同盟国としてまことに難しい相手となりつつある。その米国をどのように多角的な外交に引き戻し自制させるか。日本もドイツも知恵を絞る時だ。

 それとともに、米国も胸に手を当ててとくと考えて欲しい。

 なぜドイツの国民がシュレーダー首相のイラク戦争反対をああまで強く支持したのか、を。(2002.09.26)


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