第5回 結婚して就職する・・・。


     そう決めたのは良いのですが、音楽以外の仕事になんら興味が持てない自分に気が付きま
    した。ただ唯、「就職しなければいけない!」それしか頭の中にはなかったのです。
     まるで大学を辞めたときと似てる・・・。「よし!プロのドラマーになるゾ!」で大学辞
    めて、よくよく考えてみたら音楽仲間が回りにだれもいなかった・・・。同じことを繰り返
    していたのですねぇ。
     仕事として興味が持てるもの、それを探し出して面接を受けるために就職情報誌を買って
    1ページづつ丹念に目を通し、頭の中でそれらの仕事を想像しながら、自分が興味持てるも
    のだろうか?やれるものだろうか?続けていけるものだろうか?と考えていました。
     そんな日が3カ月ほど続きました。小さい背丈に丸々としたお腹を重そうに抱えたカミさ
    んが、傍らではらはらしながらイライラしながらブツブツ言っていたような気がします。

     そうこうしているウチに子供が産まれました。女の子でした。
    産後一ヶ月は水仕事はさせてはいけない、安静に過ごさせなくてはいけないと回りの人々か
    ら言われて、お金がないから紙おむつは外出するときだけ、いつもは布おむつ。
    「おむつは日光に当てて乾かさなくてはいけない、それが出来ないときはアイロンがけをし
    なさい。」
     その頃は丁度梅雨時でしたので、なかなか外に干せませんでした。毎日大量の布おむつを
    部屋の中に干して、乾いたら一枚一枚アイロンがけをしていました、就職情報誌を横目で見
    ながら・・・。

     さて、失業も4カ月目に入り、少々遅すぎる嫌いもありますが、ようやく今の自分が面接
    を受けられる職種は営業くらいかなとの思いが強くなってきました。というのは自分の興味
    の持てそうな業種には資格・実務経験が常に応募条件につきまとっていたのです。ワタクシ
    の父も農協の営業をやっていてかなり良い成績を残していたようなので、その血を引いたワ
    タクシも営業センスがあるんじゃないかと思ったりもしました。
     そこで書いてあった給与額も十二分に考慮に入れて面接に臨みました。というより、とに
    かく面接を受けまくりました。10社くらい。そしてことごとく落ちまくりました、見事な
    までに。
    何故か、今思うに、恐らくワタクシがいわゆる世間知らずだったからではないでしょうか。
    当時ワタクシは27才でしたので、採用する側にしてみれば即戦力を望まれて当たり前の年
    齢なのに、車の運転以外何も身につけていなかったのですから。

     それでも2社、こんなワタクシでも拾ってくれるという会社がありました。
     そのうち1社はまだ出来たてほやほやのファンシーグッズの移動販売の会社でした。しか
    し別の会社からの面接結果がまだ出てませんでしたので、そこからの連絡を待ちたい旨を伝
    えると、「だったら来なくていい!」と言われてしまいました。因みにその別の会社から来
    た返事は「今回は入社のご希望に添いかねる」。
     もう1社は営業で全国を回る、要は出張が多い会社でした。ワタクシは昔から「出張」と
    いう言葉に非常なる憧れを持っていましたので、そこの会社の給料の良さもあって非常に惹
    かれ、採用したいとの連絡を受けて大変喜びました。その会社からの返事をウチのカミさん
    に報告したところ、
    「早く就職して!早く仕事を決めて!」
    とうるさいほど言っていたはずのカミさんが猛反対をするので、そんなに反対するのなら仕
    方がないと諦めました。
    その会社はアダルトビデオの制作販売をする会社だったのです。

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