第9回 やっぱり生活は苦しく・・・。


     それまで実家の喫茶店の伝票整理などを手伝って、家計を助けていたカミさんが次女を産
    んで子供達にかかりきりになると、やはり生活は非常に苦しく夏の盛りをすぎた頃からワタ
    クシは店が終わった後、深夜1時から明け方の5時まで家の近くのステーキがメインの某
    ファミリーレストランへ皿洗いのバイトへ行き始めました。また、朝6時から8時までの2
    時間、カミさんも近所のコンビニへパートへ出るようになりました。

     今だからこそお話ししますが、そこで皿洗いをやっていたときの唯一の楽しみは、実はつ
    まみ食い。と言っても「売り物を」ではありません。お客さんの食べ残したステーキのかけ
    らです。
     理由は2つありました。1つは、夜中仕事をやっているとどうしてもものすっごくお腹が
    空いてくるのです。それでついつい出来心で・・・。そしてもう一つ、そのレストランで当
    時だしていた一番いいステーキの肉は、そこそこいい肉だったのではないかと思います。そ
    んな肉の味を覚える機会は当時のワタクシにとってめったにある事ではありません。また、
    お客として高いお金を出して食べる程余裕はありませんでしたので、とにかくいい肉の味を
    知りたかった、覚えたかった。それでついつい・・・。

     けれどそんなワタクシの生活は、さほど長く続きませんでした。仕事の掛け持ちは体力的
    に非常にきつかったので、1カ月位してファミリーレストランは辞めました。

     店は師走にはいるととたんに毎日忙しくなり、結局年末年始の3日間の休み以外は全て出
    勤し、
     「次の給料は残業と休日出勤が山ほど付いてけっこうたくさん貰えそうだぞ!」
    と給料日を楽しみにしていました。ところがもらった給与明細を見て、目が点になってしま
    いました。
     「え?何でこんだけしか残業・休日出勤がついてないの?」
    早速店長の元へ行き、
     「なんかの間違いじゃないですか?もっと残業してますよ!12月は休み取れなかったん
    ですよ!その半分も入ってないじゃないですか!なんでですか?」
    と尋ねました。最初はごにょごにょ口ごもりながら何か言っていたのですが、しつこくワタ
    クシが食い下がるものだから、突然
     「何言ってんだ!テメエがチンタラ仕事してるからだよ!」
    と怒鳴り始めました。
     「何で一生懸命仕事して、給料をちゃんと払ってもらえない上に怒鳴られなきゃいけない
    の?!」

     後日、副店長に聞いた話によると、店の売り上げに対する利益(率)のノルマを確保する
    ために従業員達の給料を少なく評価したらしいのです。全然納得行かない。それ以来店の上
    司の誰ともあまり口を利かなくなりました。
     その後はもうそこの店を辞めることしか頭にありませんでした。しかし、今度こそは次の
    仕事が決まるまでは辞めませんでした。ほんの少しですが、私も成長したようです。

     そして2年目の初夏、趣味と実益を兼ね備えた仕事の誘いが願ってもないときにきたので
    す。
     横浜新山下町に新しくできる店、超一流のジャズミュージシャンの演奏を聴きながら、一
    流のイタリアンフルコースを食べられるオシャレな店「BIRD」。そこでフロントの主任とし
    て働かないかという誘いでした。この誘いは、内装会社に勤めていたときに、営業先のレス
    トランの総支配人として知り合った方からでした。そのひとは「BIRD」の副支配人として一
    足先にそこで働いていたのです。
     早速お店を見に行ってその豪華さに感心し、ラインナップされたアーティストの豪華さに
    感動し、ついでに食べさせてもらった従業員の賄いの味に魅了され、即!、ヒラのホール係
    として働いた店からの転職を決心しました。給料も今よりずっといいんですもの!


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