第13回 「世を忍ぶ仮の姿」といえば・・・。

     BIRDでのいろんなアーティストとの交流が、ワタクシの音楽の虫を呼び醒まし、ドラム
    セットを手に入れた事とも相まって、ワタクシはこの頃よく、
    「フロント副支配人は世を忍ぶ仮の姿で、本当はドラマーなんだ。」
    と知り合う人たちに振れ回っていたような気がします。また、モタロー2号を手に入れてす
    ぐに、社長の許しを得て店の屋上の倉庫にモタロー2号をセッティングして、仕事が終わっ
    て毎晩2時間ずつ練習をしていました。また「BIRD」に出演した何人かのドラマーにはフ
    レーズやテクニックを教わったりもしました。

     そうこうしているうちに新年を迎え、1月3日から営業を開始したその日に突然福岡の叔
    父から店に電話がかかってきました。父の死を告げる電話でした。店が営業を終わり、自宅
    に帰ってカミさんにそのことを伝え、2時頃布団にもぐり込みましたがどうしても寝つけ
    ず、翌日帰郷する支度をしているカミさんに、
    「ちょっと親父と話してくるョ。」
    と言って店に戻り、夢中で明け方まで(朝6時頃だったでしょうか)ドラムを叩いていまし 
    た。

     さて、Chapter8のリハーサル見学以降、顔を合わせる度にコートランに「ゲストで叩
    け!・・・いつやる?」と言われ続け、内心とてもそうしたかったのですが、血液型A型の
    クソ真面目な一面も持っているワタクシは、
    「そうしたいけど、店が営業中はボクも仕事だから出来ない。」
    と断り続けていました。
     とうとう彼らとの契約期間をあと1週間残すのみとなった日、この機会を逃すともう二度
    と彼らと演奏するチャンスがなくなってしまうことを思うと、いても立ってもいられず思い
    切って社長始めスタッフ一人一人に許しをもらって、最終日の前日に彼らと共演する事にな
    りました。
    そのことをコートラン始めメンバー全員に伝えるととても喜んでくれました。それから本番
    までの練習により一層力が入りました。
     そして当日、ワタクシは遺品としてもらって帰った物で、父が使っていた数珠をズボンの
    ポケットに入れてステージに立ちました。

     ステージが終わり、各メンバーがそれぞれ近づいてきて、
    「GOOD JOB!」(今風に言うと「イイ仕事しましたねぇ〜!」カナ?)
    「Cool!」
    Guitarのダニーには、
    「おまえ、ゼッタイにdrumsを続けろよ!やめるなよ!」
    Vocalのブリジットは、
    「すっごく歌いやすかった!歌っていて気持ちよかった!」
    Keyboardのアンドレはワタクシの手をギュッと握りしめ涙を流しながら、
    「ボクと君はbrotherだよ。死ぬまで友達だよ!忘れないでくれよね!」

     それから3年後、その当時のプロモーターと久しぶりに電話で話をしたとき、
    「入江さん、知ってますか?アンドレが死んだこと。拳銃で頭を撃たれたらしいですよ。」
     彼との演奏を収録したテープは未だに大切にしています。そして彼が死んだ今も、彼とワ
    タクシはbrotherです。


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