学術情報処理研究 No.1 1997 pp.44-50

ATMネットワークを利用したマルチメディア情報端末


吉田朋彦 、原田隆 、相原玲二


広島大学総合情報処理センター
東広島市鏡山1丁目4-2
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概要

 広島大学では平成7年度補正予算により、基幹部分にATMを 採用した学内ネットワークシステムを導入した。本稿では、 このネットワーク上でマルチメディアサービスの実験的運 用を行なっているマルチメディアサーバおよびマルチメディ ア情報端末について報告する。

キーワード

ATMネットワーク、マルチメディア

1 まえがき

 広島大学では平成5年度の補正予算でFDDIを基幹ネットワー クに採用した学内情報ネットワークシステム HINET(Hiroshima university Informatrion NETwork system)を導入した。このネットワークシステムをHINET-93 と呼んでおり、通常のTCP/IPデータ通信に利用している。 また、この整備に引続き、平成7年度の補正予算で基幹部分 にATM (Asyncronus Transfer Mode)を用いた学内ネットワー クシステムを整備した。このネットワークは主に動画や音 声などのマルチメディア情報を伝達することを想定して設 計されたものであり、HINET-95[1]と呼んでいる。
 HINET-95導入の一環として、ATMネットワークを利用した動 画像・音声のリアルタイム配信 (ブロードキャスト)、VOD (Video On Demand) システム、テレビ会議システムなどの マルチメディアサービスを実験的に行なうため、マルチメ ディアサーバおよびマルチメディア情報端末を導入した[2]。 これらの実験的運用の概要を述べ、問題点などについて考 察する。

2 システム構成

2.1 ハードウェア構成

 まず、ネットワーク構成について述べる。HINET-95では、 東広島キャンパス内5ヶ所にATMスイッチ(日立AN-1000)を配 置し、スイッチ間をシングルモード光ファイバー(OC-12 622Mbps)で接続し、全てのスイッチ間は物理的にフルメッ シュ形状で接続されている。これらのATMスイッチを基幹ネッ トワーク接続装置と呼ぶ。そして各スイッチからおのおの 数ヶ所に光ファイバー(OC-3 155Mbps)を敷設し、光成端箱 と10Base-Tおよび100Base-Tポートを持ったATMスイッチン グHUB(日立HS-200)を20ヶ所に配置した。これらを支線ネッ トワーク接続装置と呼ぶ(図1)。


図1 ATM基幹ネットワーク構成(東広島地区)


霞キャンパスではATMスイッ チは1ヶ所のみで、そのATMスイッチからキャンパス内8ヶ所 に光ファイバ(OC-3 155Mbps)を経由してスイッチングHUBを 接続している。キャンパス間の接続は、両キャンパスのATM スイッチが高速デジタル専用回線で結ばれている(図2)。


図2 ATM基幹ネットワーク構成(霞地区)


HINET-93のTCP/IPネットワークとは、各キャンパスごとに ATMルータ(cisco-7500)を経て接続されている。
 マルチメディアサーバは、ビデオサーバ、ブロードキャス トステーション、データベースサーバから構成される。ビ デオサーバはVODデータ(動画データ)の保存・配送を行なう サーバである。日立FLORA 3100SP(Pentium 90MHz,メモリ 64MB,ディスク84GB)X2台により構成され、クライアント40 台までの同時使用が可能になっている。ブロードキャスト ステーションは放送映像などをMPEGにリアルタイムエンコー ドし、ブロードキャストするサーバである。日立FLORA 3100BP(Pentium90MHz,メモリ40MB,ディスク2GB)X1台により 構成されている。このサーバにCSチューナが接続されてお り、放送映像をリアルタイムにマルチメディア情報端末に 配信している。データベースサーバは映像情報の検索機能 を提供するサーバである。日立H9000 V715/80(メモリ40MB, ディスク2GB)X1台により構成されている。
 これらサーバは、同一のシステムがそれぞれ東広島および 霞キャンパスのネットワーク管理室に設置されており、 HINET-95のATMスイッチングHUBに接続されている。ただし、 データベースサーバは東広島キャンパスのみに設置されて いる。



図3 マルチメディアサーバの構成と接続形態


 マルチメディア情報端末は、東広島キャンパスに25台、霞 キャンパスに11台設置されている。原則として各部局あた り2台程度ということにし、可能な限り、1台を視聴覚教室 などの講義室に、もう1台を学部長室など部局長室に設置 するよう案内した。端末本体は日立FLORA 1010(Pentium 100MHz,メモリ32MB,ディスク1GB)で、ビデオボード、オー ディオボード、MPEGボード、TV会議システムのためのカメ ラなどが装着されている。また、ディスプレイ出力をプロ ジェクタなどに入力するためのビデオエンコーダも接続さ れている(図4、図5)。


図4 マルチメディア情報端末の構成と接続形態

図5 マルチメディア情報端末


 マルチメディア情報端末のネットワークインターフェイス は10Base-T(10Mbps)で、最寄りのATMスイッチングHUBに接 続されている。10Base-Tを採用した理由は、一台の端末で 10Mbpsの帯域を占有できればMPEGデータなどの伝送にも十 分耐えると判断したからである。なお、調達時点ではPC用 ATMボードが十分安定に動作していなかったこと、光ファイ バ配線は費用がかさむ等の問題点もあった。
 ATMスイッチングHUBにはVLANの機能があり、東広島および 霞地区それぞれで、サーバと端末群がひとつのVLANを構成 しており、各地区のサーバと端末はそれぞれ同一のIPサブ ネット上に接続されている。また、各地 区で1箇所、VLANとHINET-93のTCP/IPネットワークとのゲー トウェイ装置(ATMルータ cisco-7500)を設置しており、マ ルチメディア情報端末から通常のインターネットソフトウ ェアも利用可能になっている。

2.2 ソフトウェア構成

 ここではマルチメディアサーバおよびマルチメディア情報 端末のソフトウェア構成について説明する。まず、ビデオ サーバでは、lynx というUNIXに似たOSを採用している。 ビデオデータの配送には、StarWorks Serverを利用してい る。ブロードキャストステーションでは、Windows3.1上で 作動するMPEG Lab Suite により、放送映像をリアルタイ ムエンコードしている。データベースサーバにはORACLEを 用いて映像データのデータベース管理を行なっている。
 次にマルチメディア情報端末のソフトウェア構成について 述べる。端末の基本OSにはWindows3.1を搭載しており、そ のもとで以下のソフトウェアが利用できる。
 放送受信ソフトウェア:Starlight Network社の StarWorks-TV を用いてブロードキャストステーションから 配送される放送映像を視聴することができる。放送映像の ソースとしては、CS衛星から放送されているニュース専門 チャンネルCNNを24時間配送している。このため、総合情報 処理センターでは、(株)スカイポート社とCNNの受信につい てキャンパスライセンス形態での契約を結んでいる。
 TV会議ソフトウェア:マルチメディア情報端末間の1対1で のTV会議を行なうためにIntel Proshareを導入している。 このソフトウェアはIPネットワーク上で利用できるため、 キャンパス間(東広島−霞間)での利用も可能になっている。
 学習支援ソフトウェア:日立HIPLUSを導入し、マルチメディ アコンテンツを用いた学習教材を作成、視聴できる。 動画像・音声の伝送にはStarWorksを利用している。
 インターネットクライアントソフトウェア:WWWブラウザ (Netscape Navigator)、ターミナルソフトウェア (Teraterm)、NetNewsクライアント(WinVN)、電子メールク ライアント(EudoraPro)などがインストールされており、通 常のインターネット端末としても利用できる。図6, 7 にマ ルチメディア情報端末の画面例を示す。



図6 CNN放送受信中の画面

図7 テレビ会議実行中の画面


3 利用形態と利用状況

 マルチメディア情報端末は各部局とも、ほとんどが学部長 (部局長)室と視聴覚教室に配備しているが、学部長室の端 末と視聴覚教室の端末とでは利用形態がかなり異なってき ている。学部長が利用する場合は個人利用の形態になるた め、CNNの視聴、TV会議、電子メールクライアントなどが 利用されている。視聴覚教室の場合は、講義でWWWブラウ ザのデモンストレーションを行なうなどのほか、学習支援 ソフトの教材として登録されているインターネット入門の ビデオ教材(40分X2本)や電子メールについての解説教材な どが利用されている。おおむね視聴覚教室に比べて学部長 室に配備した端末の利用頻度が高いようである。

4 問題点

 運用開始後約1年の現時点での問題点をまとめてみる。まず サーバについての問題について述べる。マルチメディア情 報端末に導入している複数のソフトウェアに対応するため、 サーバのハードウェアも複数必要になっているが、これは 保守管理の面で好ましくない。また、TCP/IP通信に対応し ていないサーバソフトウェア(StarWorks Serverなど)の場 合には、他のキャンパスのサーバを保守する際にも専用の ATMパスを張る必要があるなどの制約が発生している。マル チメディア情報端末はOSにWindows3.1を用いているが、こ れは導入時点(1995年度末)で一部のソフトウェアが Windows95に対応していなかったためである。Windows95が 飛躍的に普及した現在では、Windows3.1であるというだけ で魅力を感じないとか、使いにくいと感じる利用者が少な からずいるのは事実である。現在、端末をWindows95にアッ プグレードすることを検討している。また、いくら動画や 音声を再生できると言ってもその内容が魅力あるものでな ければ十分な利用にはつながらない。コンテンツ作りが課 題である。

5 おわりに

 ATMネットワークはマルチメディア通信に適した高速通信が 可能な技術であるが、パソコンレベルで利用するにはATMボー ドの価格や光ファイバーの配線の問題などの点から、まだ 手軽に利用できるとは言えない状態である。メタルケーブ ルでのATM接続などの技術の普及が望まれるところである。 また、パソコンで利用できるマルチメディア対応ソフトウェ アについても、今後一層の充実が望まれるところである。 また、どんなに使いやすいソフトウェアであってもコンテ ンツを作成、登録するにはどうしてもある程度の人手は必 要であるし、なによりもアイデアやデザインは非常に重要 な要素である。現在、放送データとしてのCNN、学習教材と してインターネット入門ビデオや電子メールの解説などが 登録されているが、今後は総合情報処理センターの案内ビ デオや学内ネットワークシステムの紹介、ダイアルアップ サービスの利用ガイドなどの作成を計画している。

参考文献

[1]
相原玲二: "広島大学ATMネットワークHINET-95", 「キャンパスネットワークの現状と利用」研究会, 日本OR学会中国・四国支部ネットワーク研究部会, pp.53-56, 1996年2月.

[2]
原田, 吉田, 相原: "HINET-95におけるマルチメディア 情報端末", 「キャンパスネットワークの現状と利用 (第2回)」研究会, 日本OR学会中国・四国支部インター ネット研究部会, pp.5-6, 1997年2月.




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