ゾイド星は謎につつまれた星だ。
そして、いま、ゾイド星は100年戦争へ。

誕生の秘密もまだほとんどがベールにおおわれていて未知な部分が多い。生物学上の進化などは近世になって解明が大幅に進んだが、歴史学的には、ほとんど解明するには至っていない。それは、この星が幾度となく体験した大地震、火山爆発、地殻変動によるところが大きい。すなわち、大自然や宇宙のさまざまな営みに阻まれて、歴史は語り継がれることなく、溶岩の下に埋もれ、地底にのみこまれてきたのだ。いま、ここにあかされる歴史は、だから、僅か300年から400年にすぎない。そして、その歴史は、血塗られた戦いの歴史である。




■部族の時代
約50ほどの部族がゾイド星の中央大陸に広く散らばり生活していた。それぞれの部族は、環境にあわせて自分たちのメカ能力を生かし、狩をし、作物を育てていた。その代表的な部族が、山岳地帯を中心にくらす鳥族、海に住む海族、砂漠に生きる砂族、深い地底に隠れ住む地底族などであった。かれらが自給自足し孤立して暮らしてきた理由は、何回となく繰り替えされてきた天変地異にあった。また、それぞれのテリトリーに食物や水が充分にあったため、自分達の領域から外へ出ることもなかったのである。むしろ、それが身を守る方法でもあったのだ。

しかし、ZAC(地球の西暦とほぼ同じだが、ゾイド星は直径が地球より若干小さいため、自転時間が早く地球にくらべ約7〜8位年代が進んでいる)1600年いらいゾイド星は不気味な静寂を保ち、小規模の火山爆発は見られたが、それも1700年代に入ると鳴りをひそめた。その結果、星人や動物たちが増加し、ひとつのテリトリーにとどまっていたのでは生活できなくなってきた。



■領国の時代
1850年頃、部族間でお互いに不足している能力を補いあって食料の増産をはかる共同生活体が生まれはじめた。この星人達が「自然は敵」「星人と動物たちは仲間」という長く苦しい自然との戦いでいつの間にか身につけた教訓を実行に移したのであった。やがて、部族間の平和的な統合や合併が進められ、領地が広がり、小さな国(領国)が誕生した。
しかし、平和な時期は長く続かなかった。優れた能力を持つ領国が、他の国を吸収し強大になっていくに従って、弱小の領国がそれに抵抗したり、大国同士の領地の奪い合いが起きたり、内輪もめから一つの国が分裂するなどの悲劇が頻発しはじめた。



■戦国の時代
1900年に入るやいなや、優れた星人の奪い合いやメカの盗み合いが領国間で日常的になった。そこで、領国の主たちは、狩猟や輸送のためにのみ使っていたメカたちを兵器へと改造しはじめた。こうなるともう歯止めがきかなくなる。改造競争が激化し改造すればそれを使いたくなるのが常で、国境での小競り合いは絶え間なくなり、やがて始まる大規模戦の伏線となっていった。

いつの間にか、ゾイド中央大陸は二大勢力に色分けされた。一方は、ヘリック(風族の族長)を主にいただき、政治的に平和解決を望む平和連合軍であり、もう一方は、地底から大陸征服の野心を抱く戦闘派ガイロス(地底族の家系)をリーダーとする連邦軍であった。ゾイド大陸は一進一退の攻防に明け暮れ、女子供達は戦火で傷つき、領国間の裏切り、寝返り、クーデターの発生、密告がとびかい、星人の心は乱れ、かつて平和と愛に満たされた星は、疑いと裏切りの星へとその姿を変えようとしていた。
ヘリックは、星人の心がすさみ、大陸の緑が焼かれ、逃げまどう罪なき子供たちの姿に心を痛め、自らに課した平和のための戦いに、次第に疑問を抱くようになった。



■国家誕生の時代
わずか100年昔、この星は緑がおいしげり、花が咲き乱れ、愛がすべてを支配し、強い憎しみもすばらしい愛によって治めてきた。この愛すべき星が、火薬と血の匂いに満たされている……。詩人でもあったヘリックはある日、部下にも告げず小型メカ(鳥型ゾイド)を操り、ゾイド中央大陸をあとにした。時、1955年のことであった。

ヘリックが不在になった平和連合軍は、影武者をたてヘリックの不在を秘密にし、ガイロス派の攻撃によく耐えた。1年半の月日が去り、中央大陸が夏に入ろうとしたある日、大陸の空は見たことのない戦闘メカにおおわれた。未知のメカに乗った未知の生物は、中央大陸を予告もなしに攻撃しはじめた。長い戦乱に疲れ果てていた星人は、なすすべもなく逃げまどうばかりであった。外敵と戦う力など残されてなどいなかったのである。ただ、ガイロスとその一派だけが星人たちを励まし外敵とよく戦ったのである。一気に崩れるかと思われた大陸軍は、激しい攻撃に耐え、しだいにひとつにまとまって反撃すらしはじめた。

こうして30日が経とうとしていたある日、傷ついた一機の鳥型メカが大陸軍の基地に降り立った。コクピットから現われたのは、ヘリックであった。

「ガイロスよ、我々の戦うべき相手は、この豊かな大陸を狙う異国人たちだ。私は長い旅をしてきた。ゾイド星は大きい。この星を取り巻く宇宙も壮大だ。我々はほんの小さな大陸に住む小さな生き物にすぎない。醜い争いをしているうちに我々は全てを失うことになるだろう。目を開け! ガイロス」

醜い争いに明け暮れていた星人は祖先の残した教訓「星人と動物たちは仲間」を思い出し、ヘリックの下にひとつに集まった。各部族はひとつにまとまり、外敵にたちむかっていった。ヘリックは全軍の先頭に立ち「聞け星人、我等を襲うこの外敵は寒い国からきた。奴らの弱点は、暑さだ。もうすぐ、奴らがもっとも恐れる夏がくる。それまでなんとしてでも耐えぬくのだ」

ガイロスは決して征服を見るだけの野心家ではなかった。今何をすべきかを悟った彼は、ヘリックの指揮をサポートし、よく部族をまとめ、兵士を励まし、ヘリックと共に先頭に立って一気に大陸の空を外敵から奪回していった。

そして、ゾイド暦(ZAC暦)1956年7月25日(夏至)。この日から大陸の気温は正確に10度上昇する。その日の朝がきた。真っ赤な夏空に敵メカの姿はなかった。外敵は一朝にして滅亡したのである。中央大陸に平和が帰ってきた。




■民主の時代
ガイロスは、ヘリックに忠誠を誓い、自らの持つ能力を荒れ果てた大陸の再建と平和にのみ役立てることを約束した。星人は、大陸をすくった恩人ヘリックを父と敬い、国王として迎えた。ここにヘリック共和国が誕生したのである。国王は民主主義政治体制をしき、議会を開き、全てを話し合いで決め、すべての部族を平等にあつかい、ゾイド大陸はかつての平和な日々を取り戻していった。ヘリック王は結婚をし、子供を授かった。その子はヘリックU世であった。そして王は、もう1人の嫁を迎えた。その女性との間に生まれた子はゼネバスと名づけられた(後のゼネバス皇帝である)。
ヘリックU世の母は、平和を愛する風族の名門ジェナス家の出身で政治力に長けた血をひいていた。父ヘリック王は、かつてこの大陸が直面したみにくい争いの時代の再来と外敵の再来にそなえ、もう1人の子ゼネバスをもうけたのである。ゼネバスの母は勇敢な戦士の血を引くガイロスの妹であった。ヘリック王は自らの血を2つに分け、文武(政治と武力)両道の国家体制を兄弟の力に合わせて守らせるようにと考えたのである。
父はヘリックU世に武力の必要を説き、弟ゼネバスには政治の大切さを教えた。ヘリック王は、78歳でこの世を去った。ZAC暦1975年、ヘリックU世18歳、ゼネバス16歳の時であった。王は、2人の子供に一通の手紙を残した。


■ヘリック王の手紙
我が息子ヘリックとゼネバスに託す
父ヘリックは次のことをお前達2人に伝えおく。ここで知り得たことは、生涯2人だけの秘密とし、いかなることがあろうとも、他人に話してはならない。たとえ、最愛の母であろうとも。
お前達が生まれるはるか昔、この大陸は部族同士がみにくい争いをくりかえしていた。私は、そのような争いに疲れ、鳥型のメカで旅に出た。しかし、私は決して星人を見捨てたわけではない。ある計画を実行するためであった。それは、自分達の利益ばかりを考える身勝手な部族を一つにまとめるための危険な賭けだった。

私は、その昔冒険の旅に出たこのなる長老から聞いた話を頼りに、北をめざした。「熱の海」「燃える空」「鉄砂の原」いくつもの危険をくぐりぬけて、たどりついたのは、この星のもう一つの大陸「暗黒大陸」であった。全てが厚い鉄の氷に閉ざされた大陸には、憎しみと戦うことのみに炎を燃やす軍団がいた。私はその軍の団長と密かにコンタクトし、豊かな大陸が南にあり、そこでは今、長い争いが続いている。いま攻撃すれば赤子の手をひねるようなものだとしかけたのだ。奴らは私の策略に乗った。

あとは、お前達が、歴史で学んだとおりだ。もちろん、奴らが夏の暑さに脆いことを知った上での策略であったことは言うまでもない。結果、この大陸はひとつにまとまり、平和が訪れた。しかし、そのために罪もない星人の命がたくさん失われた。平和の為の犠牲というよりは、その死は私の悪魔の策略による犠牲であるとずっと心を痛めてきた。私の行為は卑怯であり、私は決して星人に尊敬される資格のある人物ではないと。わが息子達よ、この大陸の平和はお前達二人の心一つにかかっている。

父が犯した過ちを二度と繰り返してはならない。
ヘリックよ、策略のみをもって世を治めようとしてはならない。
ゼネバスよ、武力のみをもって世を治めようとしてはならない。

 父より
 最愛の息子 ヘリック、ゼネバスへ



■序 別れ   ZAC暦1978年

父、偉大なヘリックの死後、共和国議会はヘリックU世の希望により王位を空位にし、兄ヘリックを第一代の共和国大統領に、弟ゼネバスを共和国軍最高司令に任命した。
父の時代からそうであったが、議会は武よりも文を、すなわち軍事力よりも政治力を重んじた。大陸は争いもなく平穏な日々が続いた。しかし、ゼネバスのように戦うことを運命づけられてきた若者にとっては決して満足できることではなかった。ありあまる力をもてあまし、戦いの演習をしたり狩猟をしては憂さを晴らしていた。ときに、星人をまきこみ傷を負わせたり、狩猟を禁じられている動物を殺したり、大切な作物を踏み荒らしたりと、その乱暴ぶりが目立ちはじめた。議会は、思い余ってヘリック大統領に進言、大統領は幾度となく弟ゼネバスをたしなめたものだった。
「兄ヘリック。ならば我軍に外の国を攻撃させてくれ。
 ありあまる力を有益に使えるのだから一石二鳥であろう」
「おろかな。お前の手なぐさみに、大切な星人を理由も無く危険にさらすことが出来るはずなかろう」
兄弟の意見はいつも正反対であった。
しだいに、兄は弟に不信を抱き、弟は兄に不満の炎を燃やし始めた。
そして兄弟にとって、星人にとって、不幸で最悪の時がきた。
弟ゼネバスが、議会と大統領の許可を得ずに勝手に軍を動かし、大陸を発ち他国への侵略をはかろうとしたのだ。ことは事前に漏れ、大統領の親衛隊がかろうじて阻止し、兄弟は議会で対立した。
「兄ヘリック。私は何のために生きているのだ。
この燃えたぎる戦いの血をだれも消すことはできない」
「弟ゼネバス。平和の尊さは、失ってはじめてわかるものだ。
 平和ないまこそ耐えることが最も勇気ある戦いなのだ」
「私は政治は苦手だ。心やさしき議員のみなさま、自分の国をなぜもっと大きく豊かにすることが悪なのだ。星人たちも、それを望んでいるのではないのか。私はゆく、すばらしい土産をもって帰ってきてやろうではないか」
「まて、弟ゼネバス。君の軍は君のものではない。この星人のものだ」
「ほう、しかしこの議会は兄ヘリックの思うままではないか。私はゆく」
「ならば、その前に私を倒してからゆけ」
「望むところだ。決闘の申し出をたしかに受けたぞ」

兄弟により1対1の決闘は、ヘリック王メモリアルコロシアムで行われた。戦いのプロであるゼネバスにとってヘリックは相手ではなかった。勝負は一瞬であった。しかし勝ったのはヘリックだった。立ち会った議員と親衛隊が大統領に味方し、コロシアムからゼネバスとその一派を追放したのである。議員達の行為は大統領の全く関知しないことであった。が……。
「兄ヘリック、戦わずして策謀で勝つか?
 やはり、父の血は争えないな」
ゼネバスの無念の叫びはコロシアム全体に木霊した。

(……弟ゼネバス。これは私の望んだことではない。私は今日、お前に倒されるつもりできたのだ。兄弟の醜い争いで、この平和な星を危険にさらしたくはないのだ。私が倒れればお前もきっと悪夢から目覚めることだろう。私は、逃げも隠れもしない。いつでもお前との決闘を受けて立とう……)
ヘリックの心の叫びはゼネバスに届くはずもなかった。

ゼネバスは去った。ガイロス家の一部を引き連れ、大陸の中央山脈を越えたのだ。
ゼネバスの母は、自ら命を断ち、息子と行動を共にしなかった。



父ヘリック王の描いた理想郷はその死後から、僅か3年で崩れ去ったのである。ゼネバスは大陸の西の険しい山地に巨大な山城を築き、自ら皇帝の座につき「ゼネバス帝国」と名付けた。そして、ガイロス家の勇敢な兵士達はゲリラ戦を展開し、他の部族を襲い、略奪し、戦闘メカと兵士を増やし、戦力を着実に蓄えていった。




BATTLE of REDRIVER(1980)
1.奇襲 猛将ガンビーノ ZAC1980年
レッドリバー(赤い河)の川岸に立ち、なつかしいセシリア山の頂を見た時、ガンビーノは、故郷が手の届くところにあるのを知った。偉大な王ヘリックの時代、ガンビーノは若い士官として大陸の平和に尽くした。ガイロスの信任が厚く、いかなるときも敵に背を見せたことがなく、猛将の異名で呼ばれていた。ガイロスの死後はヘリック王の希望により、ゼネバスとゼネバスの母を守る親衛隊の隊長としてその任についた。兄弟の不幸な別れに際しては、幼少のころから我が子のようにみてきたゼネバスと運命をともにすることを決意した。それは、決してヘリック大統領に逆らうものではなかった。セシリア山、そこの地底こそ、地底族すなわちガンビーノの生地であったのだ。地底族は、生涯をその支配者に捧げることが運命づけられていた。



ガンビーノが率いる特殊中隊はゼネバス帝国から陸路を通り、レッドリバーに辿りつき、川をさかのぼってヘリック共和国に奇襲をかける作戦行動中であった。真っ赤な血のような色をした川(金属イオンのとけた色。川の名前の由来となっている)は静まりかえっていた。向こう岸にある共和国の守備隊が駐屯する砦は、ガンビーノたちの行動に全く気付いてはいなかった。
未明、中隊は二手にわかれ、ガンビーノの隊は渡河し、別の隊はグレイ湖を迂回しさらに上流へむかった。ガンビーノ隊が川を渡りきった時、まだ砦は深い眠りについていた。
「ワレ キシュウニ セイコウ セリ」
ガンビーノから帝国ゼネバスのもとに無電がうたれたのは、攻撃が開始された直後だった。




2.激戦 ターナー中尉
ガンビーノ自ら操縦する司令機レッドホーンの砲が火を吹いた。
深い眠りについていた砦は、蜂の巣をつついたような大混乱におちいった。レッドリバーという自然の要塞に囲まれて敵襲など予想もしていなかった。油断をつかれたのだ。指揮系統の乱れから、共和国の精鋭も新兵の集団にすぎなかった。その中でターナー突撃隊隊長は冷静に部下をまとめ、戦況の把握を急いだ。砦の司令塔からながめ、攻撃は帝国軍の特攻隊であること、そしてその指揮官が猛将ガンビーノであることを素早く判断した。ガンビーノは、ターナー中尉のかつての上官であり師でもあったのだ。
「奇襲は緻密な作戦と大胆な決断によって勝負がきまる」
かつての師の教えをターナーは司令塔の上で噛みしめていた。苦戦におちいり、混乱の頂点に達していた砦は、ターナー中尉の的確な指示により体制を整え、ハイドッカー、ゴルゴドスなど共和国メカの火力により反撃に転じた。ターナーは突撃隊を再編成するやいなや、砦の門を開き打って出た。ガンビーノはその勇敢なかつての部下を認め、ここで戦火をまじえなければならない宿命に涙した。そして勇敢な活躍に敬意すら覚えた。
激戦はその日の夜まで続いた。陽が沈むと共に消耗しきった両軍は……帝国軍は川を渡り、共和国軍は砦に引き上げた。

砦はついに落ちなかった。しかし奇襲は成功であった。帝国軍はこの作戦で共和国のメカをより多く破壊することに目標を置いていたのだ。その目標は充分に達成できた。




3.逆襲 カミソリメツラー中佐
砦で激戦がくりひろげられていた頃、帝国軍の分隊はメツラー中佐の指揮のもと、ヘリック共和国の首都をめざしていた。ゼネバス皇帝は言った。
「この作戦は共和国に少しでも多くのダメージを与えることにある。我が兵の血を流すことなく、敵兵の血を1滴でも多く流すのだ。そして、帝国派決して勝利の日まで戦いをやめることがないという我々の決意をヘリックと共和国の腰抜けどもに知らしめるのだ」
メツラーのカミソリのような目は首都に向けられていた。
しかし、メツラー隊は首都の遥か手前で行く手を阻まれた。レッドリバーから「メーデー」(SOS)発信を受けた首都防衛隊がはなった偵察メカ・グライドラーが空からメツラー隊の動きをキャッチ、攻撃に出たのである。空からの攻撃に対抗出来る装備が未熟な帝国軍はあっけないほど敗走。メツラーはジャングル地帯をたくみに逃げ、レッドリバーの本隊に合流した。これはメツラーにとって屈辱的な敗北であった。彼の共和国に対する憎しみはますます燃えあがった。

レッドリバー作戦は、帝国、共和国の両軍が正面から力と力で激突した初めての合戦であった。戦いは約4ヶ月続いたが、共和国軍が沿岸警備隊を投入することによって形成を逆転させ、ついにガンビーノに作戦の中止を決意させた。
この作戦は、共和国とヘリック大統領に、ゼネバスの固い決意と帝国軍のメカが侮り難いものになっていることを感じさせた。ガンビーノは遠く故郷の山々を眺め、再びこの地を踏めるのはいつの日か……反撃の日の訪れることを誓いつつ戦場を後にした。




4.索敵 インセクト(虫族)ブラントン
ヘリック大統領は、ゼネバスのいうような政治だけの人物ではなかった。偉大な父より帝王学(王が在位のうちに、後継者に王になるための教育をすること)を学び、勇気と愛、そして知恵を備えた情熱あふれる青年大統領だった。弟との決闘の時に、議員達が味方したのも、その優れた人格によるものであって断じて策略によるものではなかった。父が彼に教えた帝王学の一つに「戦わずして勝つ」があった。それは、敵を知り尽くして先手を打ち、敵の行動を封じることであった。
弟ゼネバスが共和国の武力強化を進めていた時にも、兄ヘリックは敵を探るための偵察部隊を編成し、隊員を育てると共に、メカの開発にも力を注いだ。皮肉なことに、兄と弟が戦う今、共和国の偵察部隊はその能力を大いに発揮しはじめたのである。偵察隊司令官ブラントンは虫族(インセクト族)の出身で、クモ型メカ「グランチュラ」を操り敵陣に深く潜入、地味な活動ながら重要な任務をこなしてきた。闇でも目がきき、独特の触覚を持ち、風の向き、匂い、温度、波長(生き物が発する電波)を感知し、どの方向に、距離はどのぐらいで、部隊の規模は、メカの種類は……まで瞬時に読み取るスーパーパワーを持っていた。それは、生きたレーダーであった。帝国軍にとってブラントン偵察部隊ほどやっかいな相手はいなかった。




潜入 陽気なガラモス
戦闘意欲ではひけはとらないが、装備ではまだまだ劣り、苦戦を強いられている帝国軍の中にあって、つねに笑いが絶えずどんな厳しい任務でも愚痴ひとつこぼさない部隊があった。ひと呼んで陽気なガラモス大尉が率いる特殊工作隊であった。火族(ファイヤー)出身であるガラモスは爆発物のプロフェッショナルである。地を這うように赤くのびる炎は、敵陣に音もなく迫りあっという間に焼きつくす。その早業は火族が最も得意とする攻撃テクニックであった。初期のころはメカも持たず、兵のテクニックのみで戦ってきたが、モルガを設計(発案者はガラモス自身)、完成してからは、敵陣への接近・潜入・破壊がさらに活発となった。特に緊張が求められる任務であったが、ガラモスの勇気と陽気さは隊員をリラックスさせ、作戦の遂行は多くの成功をみた。共和国兵士は幾度と無く戦場に響くガラモスの陽気な笑い声を聞いたことだろう。しかし、おしいことは、工作活動がまだゲリラ的な効果しか発揮できなかったことだ。大きな作戦の成功の鍵を握るような重要な存在になるまでには、まだ年月が必要であった。
ガラモス隊は一度出撃すると何ヶ月も戻らない。しかし、帝国の星人は風の頼りに彼らの活動を耳にし、小さな部隊でありながら巨人のような力を発揮するガラモス達に賛辞を送るのであった。




BATTLE of DESSERT(2018〜2029)
6.帰還

傷つき、疲れ果てた共和国軍の兵士が故郷へ帰ってきた。父は、息子は、兄は、弟は、共は、迎える家族達の死線は傷ついた隊列に注がれる。兵士達ばかりではない。戦闘メカも被弾し、焼かれ、ボロボロに傷ついている。そして、愛機に乗る兵士もまた同じだ。戦いの初期の頃は、まだ小競り合い程度であったが、レッドリバー戦役いらい戦火は拡大する一方で、共和国も帝国も日に日に消耗は激しさを増していった。
勝利に歓喜していた星人も、次第に深刻化する被害に家族や友の無事を祈る静かな出迎えにかわっていった。
しかし、傷ついたメカは、ただちに修理して最前線に復帰させなくてはならない。共和国の工場では次々に運び込まれてくるメカの修理に24時間体制を敷いていた。メカニック達は使いものにならなくなった装甲を取替え、破壊されたり、火力で焼けただれた砲身をクレーンで取り外しつけかえる作業を必死で進めている。工場をフル操業しても間に合わず、未修理のまま出撃するメカも少なくない。戦っているのは前線の兵士だけではない。工場で働くメカニック、家を守る家族も平和と愛のために戦っているのだ。静かにのぼる朝日を浴びて、誰に見送られることもなく修理の終わったメカは出陣する。
彼らが無事に帰還する日はいつ来るのだろうか。




7.侵略 ZAC2018年
発信 ブラントン偵察中隊「ワレ 帝国軍ノ大規模ナ作戦行動ヲ キャッチセリ タダチニ 出撃ノ準備ヲ サレタシ」
敵の特殊工作隊の動きが活発となり、帝国軍の作戦行動の前兆と読んだヘリック大統領はブラントンに命じてゼネバス軍の動静を密かに探らせていた。ブラントンの報告は大統領の読みの正しさを証明した。ゼネバス皇帝は、レッドリバー戦役以来最大規模の作戦行動に出ようとしていた。それは、砂漠を横断し、中央山脈を越え、怒涛のように共和国に攻め込もうとしう一大作戦であった。ヘリックはすでにそれに備え、中央山脈一帯に共和国軍の主力を集結し、迎え撃つ陣をしいていた。ブラントンからの電信にヘリックは「全軍に告ぐ。中央山脈を越え帝国領内へ突入せよ」と総攻撃の命令を発した。



今まで、迎え撃つ受身の作戦に終始していたヘリックは、ここで一気に勝負をかけたのだった。中央山脈を越え侵略する共和国軍、その多くの兵士は初めて目にする帝国軍の領地である。自分達の作戦を逆手に取られたゼネバスは、首都決戦を避け、急遽砂漠地帯に陣を敷いた。ここに、ゾイド史上最大の作戦「砂漠の戦い」が開始された。投入されたメカ、主力メカ100機、その他約5000機。両軍兵士合わせて5万人。砂漠はこうして血に染まっていった。




8.祈り
流砂(流砂砂漠で見られる自然現象で、砂が蟻地獄のように流れ込み、様々なものを飲み込んでしまう)に埋もれていく両軍のメカ。砂漠の戦いは、ヘリックの計算通りにはゆかず、長期戦になった。帝国軍はよく踏ん張り、押されては返す一進一退の膠着状態であった。長い補給路を確保しなければならない共和国軍も長期化する戦いに焦りの色を隠せない。

血なまぐさい戦場にも静かな夕暮れが訪れる。両軍の砲火がやみ、しばし休息の時がきた。神族の祈り師たちのもとに兵士がひざまずき、今日一日の無事を感謝する。彼らがひとしく祈るのは、朝まで元気に語り合っていた戦友の冥福であり、遠い故郷にいる家族のことであった。戦いに疲れ果てた兵士は戦闘メカの陰で眠りについている。夕日を頼りに故郷への手紙を書いているものも少なくない。ヘリック大統領は危険を犯して最前線に司令本部を設営して全軍の指揮にあたっていた。時には、先頭に立ち突撃することすらあった。共和国軍の戦意は依然として高かったが、消耗は目に見えて深刻になっていった。大統領の信任厚いアイザック大尉も愛機ゴドスのコクピットで敵陣を睨みながら、長引く砂漠戦に疲れを隠せなかった。
砂漠に適している軽量で強力なメカの開発が必要だ……。
大尉はどうしても攻め切れない砂漠という自然の要塞に恐れすら抱きはじめていたのだ。激戦に明け暮れるこの大陸に向かって、はるか未知の宇宙空間から一隻の宇宙船が音もなく接近しつつあることを、まだ誰も知らなかった。


■GUYSACK
RMZ-12 ガイサック



<初戦時>
砂地や岩場における行動力は抜群だ。とくに弾力性のある左右4本ずつ、8本の足で22tの重量を分散、そのために砂地…特に砂漠における作戦時にはその能力をいかんなく発揮する。初期には、その生来から身につけている毒液を武器に参戦していたが、帝国との初戦時には、軽装ながら武装している。


<ガイサック改>
接近戦用のレーザーシザースを強化、これは帝国ゾイドの厚い装甲をレーザーで切断し、そこからポイズンジェットスプレー(毒液発射スプレー)で内部の兵士を倒す。砂地における行動が俊敏なため、敵の攻撃を巧みにかわしながら接近する。レーザーをつけた76oレーザー砲座にはオペレーターが乗り、乗員は2人になる。


<モーリス少尉専用機>
通常は、ブルー・ブラックタイプのカラーリングであるが、モーリス機は、砂漠の砂地に色をあわせ、うすり茶(ライトブラウン)で全身をつつんでいる。モーリス少尉は本来特殊な探査能力をもっているため、愛機は最小限の装備にし、重量を軽くして行動力にウェイトを置いている。帝国軍にとっては目障りな存在である。



<テクニカルデータ>
全長:10m、全高:4m、重量:22t、最高速度:120km/h、武器:ポイズンジェットスプレー、硫酸ジェットガン、ロングレンジガン




9.不時着
ゾイド中央大陸を南北に走る中央山脈。星人達はその山脈を誰いうこともなく「恐竜の背骨」と呼んでいた。険しく、天候が変わりやすいため、めったに人の入ることもなく、鳥族と神族が支配していた。砂漠の戦いも長期化し、共和国、帝国の両軍は何か打開策がないかと互いに探りあいをはじめていた。そんなある日、グランドバロス山脈のほぼ中央で、両軍偵察隊の白兵戦が発生した。小さい戦いであったが、(戦場が)深い密林であったために朝から夕方まで攻防が続いた。



両軍の兵士がもの凄い音を聞いたのは、夕日が西の空を染めはじめた時だった。兵士達は、戦いを忘れ音のする空を見上げた。それは火を吹いて落ちてくる巨大な島だった。爆音は兵士達の耳を破り、巨大な島はグランドバロス山脈の平地にぶつかるように不時着した。両軍の兵士は、それまでの攻防を忘れ、未知なる飛行物体へ走り寄った。爆発した飛行物体からは、星人と同じ体型をした生物が傷つき降りてきた。その生物こそ、はるか6万光年のかなたにある惑星、地球から飛来した地球人であった。兵士は、その生物達を奪い合うように捕虜にした。その捕虜達こそが、ゾイド大陸の戦いの鍵を握る存在になろうとは、誰も考えもしなかった。

未知の飛行物体の不時着はゼネバス皇帝、ヘリック大統領に伝えられた。二人の頭に浮かんだのは、かつてこの大陸が争っていた時に来襲してきたと父から聞いた外敵のことであった。両軍はどちらからともなく兵を引き、長かった「砂漠の戦い」は休戦状態になった。















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