【ニュース】
「新品」飲料用に再び
新技術で変わるペットボトルのリサイクル
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化学プラントの脇の空き地は、全国の回収ペットボトルの見本市のようだった=山口県徳山市の帝人ファイバー事業所で |
飲料用のペットボトルは、衣料やトレーなど、様々な物にリサイクルされているが、ガラス瓶やアルミ・スチール缶のように、もう一度飲料用ボトルにするのは難しいとされてきた。それが今年、繊維メーカーが使用済みペットボトルを新品のボトルに再生する技術の開発に成功した。この新技術で、リサイクルの現場はどう変わるのか。(井原圭子)
○製法工夫、回収量の4割再生へ 環境への負荷軽減
山口県徳山市の瀬戸内海に面したコンビナートの一角にある帝人ファイバー徳山事業所が今年4月、世界で初めて、ペットボトルをペットボトルに再生する技術を開発した。
80年代は繊維製造などでフル稼働していた事業所も、今は不況の影響で構内に空き地が目立つ。そこに保管されているのが、全国から回収された使用済みペットボトルだ。現在は繊維に再生しているが、03年7月から再ボトル化の本格操業が始まり、来秋には製品が店頭に並ぶ見通し。全国で回収されるボトルの4割近い年間6万トンを再生する計画だ。
ペットからペットのリサイクルは、なぜ難しかったのか。
「問題はペットボトルの製法と成分でした」
帝人のCTO(最高技術責任者)補佐でリサイクル総括担当の鶴岡章黄さんはいう。
ペットボトルは、一つの金型で同時に100本以上を数十秒間で成型する。低コストで量産できる技術だが、原料のポリエステルには高い純度が必要になる。
ところが、回収されたボトルには、キャップやラベルのポリエチレン、ポリプロピレンが交じっている。それを細かく刻んで、洗って溶かす従来のリサイクル法だと、ポリエステルの純度がわずかながら下がり、成型の過程で破損したり、出来上がった樹脂が黄ばんだりしてしまう。
こうして作られた再生ボトルも、厚生労働省が調べて飲料容器として衛生上問題ないことは分かっているが、見た目が良くないことから商品にはなりにくい。
同社はこの課題を、繊維製造で培ったノウハウでクリアした。回収したボトルを化学的に分解し、分子に戻して精製することによって、石油から作るのと同様の品質と「透明度」を実現したという。
コストも「新品と同じ価格で提供できる」。ボトルの収集、再生にかかる手間や費用も併せた環境への影響も、同社の計算では、この工場の技術と設備を使った場合、石油原料から作るのと比較して、二酸化炭素排出量は約2割減。エネルギー消費は約3割減るという。
「環境によければ少々質が劣っていても買ってもらえるという姿勢では市場に見放される。新技術で消費者に喜ばれ、同時に環境負荷も減らす道を探りたい」と鶴岡さんは話す。
○再商品化、「大都市のマナー」問題 業者で原料奪い合いも
同社がペットボトルの再生を本格化する上で、意外な悩みがある。原料の確保だ。
容器包装リサイクル法で97年度から、ペットボトルを使う事業者には再商品化が、市町村には分別収集が義務づけられた。しかし、受け皿となるリサイクル産業の整備が追いつかず、野積みペットが一時、社会問題になった。その後、再生業者は順調に増えたが、今度は回収ペットの奪い合いになりそうだという。
ペットボトルの01年度の回収量は16万トン。回収率はまだ40.1%で、残りは焼却や埋め立てに回っているとみられる。
環境省リサイクル推進室は「問題は大都市だ」という。消費量の多い大都市では回収率が低いうえ、回収に出す際のマナーにも問題があるという。
回収されたペットは、箱形に圧縮した状態でリサイクル業者に引き取られ、商品に生まれ変わる。だが「キャップを外し、洗って、つぶす」のルールが守られていないと、再商品化は難しい。
「中には飲み残しや、吸い殻などが入ったボトルもある。手作業で選別をする自治体もあるが、集めれば集めるほどコストがかかり、大都市では負担が重くなっている」とPETボトルリサイクル推進協議会。
日本容器包装リサイクル協会は、キャップつきボトルの割合などを基準に、全自治体の回収ペットの品質をA、B、Dの3段階で評価し、ホームページで公表している。
最低ランクDには川崎市、横浜市など大都市が多い。埼玉県の越谷市など5市1町のように、再商品化せず、高性能の発電施設を備えた焼却炉で燃やし、エネルギーにする道を選ぶ自治体もある。
しかし、このやり方は資源の節約と再利用を進める「循環型社会」には逆行しそうだ。飲料用ペットボトルの生産量は、低迷するガラス瓶や缶入りを尻目に、3年連続で10%以上伸びている=グラフ、全国清涼飲料工業会調べ。「あとは消費者のリサイクル意識の高まりに期待するしかない」。関係者は口をそろえる。
(09/16)
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